文献研究、実態調査の両面において、現代日本社会における伝統的死生観と先端医療との関係を宗教学の視点から検討した。 まず、一方では脳死・臓器移植や末期医療などの先端医療に関連して、日本社会における脳死・臓器移植問題の変遷と、それにともなう死のとらえ方の変容を検討して、死の概念の相対化が進展している現状を浮き彫りにし、論文「死をどうとらえるか--日本社会における脳死・臓器移植問題の移り行き--」として発表した。他方で、「民間信仰」並びに伝統的死生観の検討に関連して、従来の日本民俗学の祖霊一元論的発想と死者の霊魂の実体視を批判的に吟味した。その一端は、論文「荒神祭祀論のための覚書--出雲地方を念頭に置いて--」として発表している。 これら文献中心の研究と並行して、岡山県・鳥取県の山間部、対馬・壱岐、並びに隠岐において「スヤ」と呼ばれる墓上施設の実態調査を実施し、その成果の一端を「墓上施設の現在--隠岐島前の「スヤ」をめぐって--」と題して、日本宗教学会第61回学術大会(於大正大学、'02.9.14)において口頭で発表した。また、日本社会における伝統的死生観が現われているひとつの典型例として神葬祭に着目し、一方では近代の神葬祭の雛形を生みだしたとされる旧津和野藩領内、また他方では明治初年、神葬祭墓地として創設された東京都の青山霊園、並びに日本最初の墓地公園として構想された多摩霊園などにおいて、現時点における神葬祭墓地の現状を調査・検討している。
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