平成14年と平成15年、米国テネシー州ナッシュビル市とカリフォルニア州サンフランシスコ湾岸地域において、標記研究課題についての調査を行った。多文化・多宗教社会であるアメリカにおいては、公立学校は父母の価値観を反映し、ときには厳しく対立する「戦場」になる場合も多い。日本と比べて、多様なものが共存していくための教育の緊急性は極めて高い。 アメリカにおける政教分離は国教樹立の禁止、すなわち公的機関において特定の宗教を特別に扱うことの禁止であり、宗教の否定ではない。広範なアメリカ世論は公立学枝において宗教に「ついての」教育がなされることを支持している。しかし、1962年の連邦最高裁の判決以降、公立学校においてはほとんど宗教教育が行われていないのが現実である。 公立学校において宗教についての教育を行う場合の障害となる、教師への教育、適切な教材などの問題に取り組んでいるのは、政府や学校管理者ではなく、NGO組織である「憲法修正第一条センター」である。ここにアメリカの民主主義の力を見ることができる。 今後移民の増加により、多文化・多宗教的状況が進むことが予想される日本が、宗教が国際政治の重要な要素となっている世界において平和的共存を実現するためには、公立学校における宗教に「ついての」教育の必要性は、ますます増加すると思われる。
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