本研究の基本的スタンスは、遺伝子医療および再生医療を中心とする先端医療技術がもたらす倫理的・社会的諸問題を、そのルールづくりにおける公共的な意思形成のあり方と、生命の価値や質をめぐる哲学的問いを、関連当事者間および社会におけるコミュニケーションの問題として捉え返すというものである。今年度は、当初意図していた三つの主要な作業について、それぞれ以下のような成果が得られた。 1.文献研究 (1)遺伝子操作と障害者問題をめぐる国内外の文献資料の読解を踏まえ、またそれに関連する学会・研究会・シンポジウム等への参加を通じて深めた考察の結果を、下記の論文にまとめた。 *Genetic Manipulation and the Individual Model of "Quality of Life"(国際高等研究所報告書『臨床哲学の可能性』所収予定) *同内容の日本語論文「遺伝子操作と<生の質>の個体モデル」(大阪大学大学院医学系研究科・医の倫理学教室『医療・生命と倫理・社会』第2号、2003年3月刊行予定) (2)生殖細胞系列への遺伝子増強に焦点を当てて、それが新しい優生学思想との結びつきを強めつつ広がりを見せている状況を、主に英語圏の文献を分析し、その問題点を学会報告し、論文として投稿した。 *「生命の設計と社会の設計-新優生学に関する一考察」(日本医学哲学・倫理学会、大阪薬科大学、2002年10月26日、論文は現在審査中) 2.研究現場との対話…遺伝子治療の臨床研究審査委員会のメンバーとして、基礎医学研究者や研究従事者との間で、インフォームド・コンセントを含む研究の進め方をめぐる実質的な議論を行い、有益な知見を得ることができた。 3.文献・資料のデータベース化…遺伝子関連医療の倫理的・社会的問題についての資料については、研究支援者である大阪大学大学院医学系研究科博士課程院生の協力を得て、充実したデータベースの作成を進めることができた。
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