本研究の特色は、情報モラルと日常モラルとの相違を、電子ネットワークの世界の側から捉え返し、その条件を探ろうとする点にある。そのために、今年度の研究は、(1)昨年4月から開始された情報モラル教育(中学校)の調査・分析と(2)Webにおける自由と規制をめぐる諸動向(公開の際の届出制に関する各国の動向等)の調査・分析を、主たるテーマとして実施された(これらの研究は、3つの研究課題のうち、(1)情報モラルと日常モラルの相違点の比較解明、並びに(3)初等・中等教育におけるガイドラインにおける情報モラルの分析と日常モラルとの対比、に関わっている。) 前者の研究からは、これまで注目されてこなかったタキソノミーの問題が明らかにされ、また後者の研究からは、自由と規律という、一見矛盾し合うかに見える関係が、実際には、規律の主体の問題(例えば、国家による規制か個人による規制か)に解消されることが明らかにされた。こうした研究成果は、各種シンポジウムでの報告や後記の「11.研究発表」に挙げられた諸業績の中に生かされたが、その意味でも、今年度の研究により、実り多い成果がもたらされたと言える。 こうした成果を踏まえて、来年度の研究においては、とりわけ「情報モラル」の教育という場面で、情報モラルと日常モラルを比較しつつ、そこから日常モラルの諸条件を確認し、さらに情報モラルの特性を明らかにしようと考えている。それによって、日常モラルを支えるいくつかの条件が明らかにされ、モラル変容を理論的に説明しうる途が見出されることになるはずである。
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