平成14年度から15年度にかけて行われた本研究は、とりわけ教育に関わる応用倫理学的場面において、情報モラルと日常モラルの差異を明らかにすることに主な狙いがあった。この目的は、2年間の研究によりほぼ達成されたと言うことができる。 研究代表者がこの課題を「情報モラル」の教育という場面で考察したのは、教育改革の中に情報教育及び情報倫理教育(ここでは「情報モラル」という言葉が使用されている)が位置づけられ、近年コンピュータ・エシックス的な問題が教育に関わる議論の中でしばしば問題にされてきたからであり、またその際、しばしば情報モラルの特殊性(=日常モラルとの差異)が検討されざるを得なかったからである。すでに、現在、全国の中等教育の現場で、情報モラル教育が進められているが、ここには本研究と密接に関わる諸課題が山積している。 こうした狙いで進められた2年間の成果は、多くの論文・著書となって結実した。また民間の研究機関と協力しながら、インターネット依存症などの研究を通して、情報モラル的状況の特殊性の一面を明らかにすることもできた。さらには、シンガポール教育省でわが国の情報教育の状況に関して講演する機会を得て、相互に意見を交換、当地の小学校、中学校、高校などでの情報(倫理)教育の現場を調査する機会を得たことも大きな収穫であった。 しかも、この二年の間に、日常モラルと情報モラルが徐々に接近しつつあることを確認できたことは研究上のさらなる成果である。その主な理由は、電子ネットワークと日常世界とが連結し始めた点にある。今後、この傾向は、ますます顕在化するであろうが、この新たな現象については、今後の研究の課題とするつもりである。
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