(1)自然相手の様々な仕事や労働が人間と自然の関係をどう生みだしたか、(2)中山間地域の自然の利用の現状、(3)日本的な視点から見た欧米の環境倫理思想のもつ問題点という3点から、本年度の研究を実施したが、今日の「環境」への関心という視点から、戦後の高度経済成長期までは残っていた様々な自然相手の仕事や労働の意義、あるいはそれを生みだしていた村落共同体のもつ意味を読み直してみると、人びとがそれによって暮らしを立てていた、そうした仕事や労働が、当初から意図的であったかどうかは別にして、きわめて自然調和的・自然共生的なものであったことが浮かび上がってきている。一方、中山間地域の自然の利用状態を実地調査してみて、田畑のみならず、森林においても、人間の手が入らぬことによる自然の質の劣化という意味での自然の荒廃が到るところで進んでいることが判明してきている。これは当然、中山間地域の過疎化や近代化によって、かつての自然相手の仕事や労働が失われ、消失したことによるのであり、自然とのかかわり方としての環境倫理を喪失したことによると推論される。したがって、現在の深刻な環境問題を抱えた浪費社会から「持続可能な社会」へ転換するには、かつての自然相手の労働が回復され、それが自然とのかかわり方としての環境倫理として確立される必要があることを確信するに到ったが、もとよりかつての自然相手の労働をそのまま復活させることはできないと思われるから、自然とのかかわりをどのような形でつくりあげていくか(例えば、世代間倫理として働いていたと思われる入会権を今日にどのような形で埋め込むか)を、今後の環境倫理の方向性として求めることが本研究のさらなる課題となっている。
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