平成14年度では、「人間と自然の濃密にして健全な関係」が自然相手の労働や仕事によって生みだされていたことを、かつての村落共同体のもつ意味を読み直すことに専念した。さらに中山間地域の自然の利用状況を実地調査して、田畑においても、森林においても、人間の手が入らぬことによる自然の質の劣化が進んでいることが判明した。これは自然相手の労働や仕事が失われ、忘れられていくことによって、人間の自然へのかかわりとしての環境倫理を喪失したことを明らかにした。したがって、本研究においては、現在の深刻な環境問題を抱え込んだ「超消費社会」を脱して、「持続可能な社会」へと移行していくには、かつての自然相手の労働が恢復され、それが自然との関わり方という環境倫理として確立することが課題となったが、平成15年度はこの方向に研究を進めた。 まず、(1)自然相手の労働や仕事を喪失させ、自然との関係を希薄にしている科学技術とそれに支えられた現代社会のもつ問題を根底的な場面から洗い出す作業を行うとともに、(2)「総有(入会権的権利)」を一つの有効なモデルとして、現代社会そのものが喪失している持続可能性を如何に恢復していくかを模索した。(1)の科学技術批判においては、我々の生活の隅々まで浸透した科学技術の成果が低エントロピーの良質の資源に依存するものであり、この良質の資源の使用が人間から労働や仕事を喪失させ、人間の自然との関係性を希薄にしている要因であることをつきとめ、(2)の「総有」のモデルに関しては、「総有」関係にあったかつての共同体が、共同体そのものの内に、未来を含む持続可能性を備えており、それがまた「世代間倫理」でもあったことを明らかにした。
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