本研究は、「自己決定」の尊重が問題となる場面を類型的に想定しながら、1.ある選択がなされたときの理由の説明・正当化をめぐる論理的・概念的な諸問題について考察を加え、かつ、2.理由が語られる言説空間の構造の多様性を分析し、もって3.一人称権限(first person authority)にかんする哲学的問題への解を探るとともに、4.「自己決定の尊重」のあり方への大まかなガイドラインをも構想する、ということを目的としていた。 二年にわたる研究の結果、1.自己決定の根幹をなす「自己知」(self-knowledge)は、知識論一般での「内在主義と外在主義」の対立ではカバーできない一人称固有の実践的レベルでの問題をはらんでいること、2.その問題が、実践推論(practical reasoning)の構造を介して、倫理学における理由の存在をめぐる「内在主義・外在主義」および道徳判断の動機づけ作用をめぐる「内在主義と外在主義」の問題と不可分である、ということが非常に明確になった。これは、大きな収穫であり、近々しかるべき形で公表したい。 これらに較べると、言説空間のシステム論的な分析とつき合わせる作業は、立ち遅れてしまったが、上記の事柄が明らかになるにつれて、「自己決定」をめぐる諸問題が、「個人の自由と他人の権利」の衝突・「個人の自由と公共の福祉」という問題群とそのように違う問題であるかということがかなりハッキリしてきたことは大きな成果であった。今後、一人称の自己知それ自体の実践的性格とつき合わせて、この違いをより深く分析していきたい。
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