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本研究は、近世後期における「折衷学」・「考証学」の学統の地方的展開の実態を明らかにするとともに、その学問の基盤である「書物」の入手と享受の意義を思想史的に考察することを目的とするものである。その端緒として平成14年度に主として取り上げたのが、現在の福島市近傍に居住した知識人たちであった。当該地域は「徂徠学」派に属し後に「考証学」への志向を強くした熊阪台州とその弟子である「折衷医」小野隆庵が活躍した地域であり、彼らの「書物」を比較・考量するという学問的な営為は『地域」の学問環境・思想環境へ影響するところ大であった。
平成15年度の研究は、(1)上記地域はもとより、隣接する二本松市・郡山市・本宮町すなわち江戸時代の二本松藩領を対象とした学問状況の基礎調査と(2)各種関係資料・文献の入手とその検討、(3)東北地方全域に渉る「折衷学・考証学」の展開への調査の前提作り、に重点を置くものであった。
資料調査の主要地は、福島県郡山市、福島市、同伊達郡桑折町、宮城県加美郡岩出山町、同遠田郡涌谷町であり、当該地の資料提供先に赴き、既知資料・未見資料の閲読・複写を行い、今後の検証の材料を整備した。また、関連する文献の確保のため、東京大学附属図書館・京都大学附属図書館、福島県立図書館、宮城県図書館等の図書館に赴いた。
調査の過程で、当該地域にあっては「折衷学・考証学」と既存の「徂徠学」「朱子学」等が学問上、政治秩序上で複合的に交差し、地域の個性を示すべく偏差を有する展開をなしていることが明らかになった。のみならず、「国学」や俳諧等の学問空間・文学空間と共存していることも明らかになった。これらのことから、本研究の課題解明のためには地域の思想環境への幅広い調査が必要であることが改めて浮き彫りになった。
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