研究概要 |
本年度は日本とヨーロッパにおける宇宙像の転換と、それが道徳世界に与えた影響の全体像を明確にすることを目的とした。そのため17世紀から18世紀ヨーロッパでの天文学史、地理学、測量学、幾何学の発展と、それが宇宙をどのように描き、宇宙生命の存在の可能性をどう考えていたか明らかにするために、基礎的文献の収集を行い、それにもとづいて研究した。また海外現地調査スコットランドの貴重図書館のうち、エジンバラ大学図書館およびグラスゴー大学図書館で18世紀道徳哲学講義についての現地調査を行った。 その結果として、従来見逃されていた宇宙観と道徳哲学との密接な関連が、とくに啓蒙期のキリスト教的人間観および来世観について見出された。近代自然科学は、宇宙の脱人間化を引き起こすとともに、自然の隠された秩序の発見によって、より洗練された自然神学による神の知恵の証明を与えた。これは聖書解釈をめぐって多数の人命が失われた17世紀以後では,知識人の間でもっとも説得力のある神の弁証だと考えられるようになった。膨大で無意味な非人間的宇宙のかわりに、宇宙空間のいたるところに神の祝福を受けた知的生命体が生存し、宇宙を覆い尽くす宇宙的な共同社会が存在する。無限の世界を理解することができない人間知性の不完全性にもかかわらず、科学は宇宙を貫く秩序の存在を信じることができ、人間は空間的中心性を喪失しながら、宇宙全体に広がる善意の同朋の表象によって、自己の存在の意味的中心性を保つことができたのだった。 以上の研究成果は以下にあげた論文の基礎となり、その中で一部公表した。
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