1 いまだ未確立である日本環境思想史を構想していくために、相対的に進んでいる欧米の環境思想史研究を概観し、アルド・レオポルド、レイチェル・カーソン、リン・ホワイト・ジュニア、エルンスト・シューマッハー、アルネ・ネス、キース・トマス、キャロリン・マーチャント、ハンス・イムラー等の研究の環境思想史研究上の意義を明確にした。また、宇井純、中野孝次に始まる日本環境思想史研究の模索状況を整理するとともに、日本環境思想史研究の課題を明確にした。 2 日本環境思想史の基軸としての南方熊楠の環境思想の意義を明らかにし、熊楠も言及している17世紀の熊沢蕃山から近代日本の歩みとその生涯が重なる南方熊楠に至る日本環境思想史を構想し、下記の思想を取り上げその具体的記述を試みた。環境保全論の嚆矢としての熊沢蕃山、列島の実態に見合った集約的な農業生産を主張する『農業全書』及びその影響を受けた陶山訥庵の農政論、有限の資仮の身分的消費を説く荻生徂徠、消費の抑制とホリスティックな世界像を示す石田梅岩、自然と米の根源性を主張する安藤昌益、列島の開発と交易による富国の道を示し近代日本の進路を先取りしていた海保青陵と本多利明、農村復興に尽力し自然と労働に関する思索を深めていった二宮尊徳と大原幽学、人権意織に基づく公害反対運動の先駆者である田中正造、環境思想を包括的な形で示し日本環境思想史の基軸と言ってよい南方熊楠。 3 日本環境思想史研究のケース・スタディとして石田梅岩の思想を取り上げ、「心性ノ沙汰」、「倹約」と「正直」、「道」と「職分」、「商人ノ道」をめぐる従来の研究の不十分性を指摘するとともに、新たな解釈を示した。その中で、消費の抑制とホリスティックな世界像を示す梅岩の思想の日本環境思想史上の意義を明確にした。
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