今年度の考察により、「韓国近代孺教改革運動における西洋・中国・日本の果たした役割」に関して、以下の点を明らかにすることができた。 (1)西洋の影響を「ウエスタン・インパクト」「近代国民国家形成」という大問題として捉える以前に、中国を経由してもたらされたヨーロッパの学術としての「西学」やキリスト教信仰としての「西教」の影響を忘れてはならない。激しい「衛正斥邪」運動が展開する中にあって、なぜ韓国近代知識人は信仰としての「西教」に執拗に傾倒したのか。おそらくそれは、「アイデンティティーの形成」に深く関わる問題であるだろう。 (2)日本によって植民地化される韓国が、認識論レベルにおいて日本から影響を受けたことは、まず何よりも、韓国(自己)を日本(他者)の反照として対象化すること、すなわち「対-形象化」(酒井直樹)という認識パターンの受容であった。さらに、服部宇之吉の「孔子教論」によって提唱された「精神」や「魂」への傾倒も重要である。この精神論的な思考パターンは、日本近代思想を特徴づけるとともに、韓国近代思想の形成にも大きな役割を果たしたと考えられる。 (3)中国からの影響は、まず康有為による「孔教国教化論」に啓発された「儒教の宗教化」が挙げられる。と同時に、中国知識人が懸命に取り組んだ「民族の危機」「民族の独立」という間題意識を、韓国知識人も全面的に共有した。「民族」という近代的な概念は、実は西洋から導入されたというよりも、中国から受容したと考えなければならない。 (4)以上の考察により、韓国近代儒教改革運動の中心的なテーマは、近代化政策や植民地化の伝統的儒教が失った「民心を統一するような紐帯」を再構成すること、すなわち<民族魂>や<国魂>のようなきわめて内面的な道徳的価値の創造であったと思われる。
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