平成14年度から3年間にわたって「韓国近代儒教改革運動における近代的思惟の形成-西洋・中国・日本の果たした役割」について考察してきた結果、以下のことが明らかになった。 (1)西洋近代が朝鮮儒教にもたらした最大の影響は、「文明」という思想基軸を持ち込むことにより、朝鮮人が東洋文明や儒教を自己卑下する傾向、あるいはそれへの反発をもたらしたことにある。その過程で注目された概念が、物質文明に対抗するための「倫理」や「礼義」という精神力を強調するものであった。 (2)同時期に中国を経由してもたらされた影響は、「北学」と呼ばれた天主教受容を媒介にして、「天」そのものを解釈する可能性が開かれたこと、そして、康有為による「孔教国教化論」に啓発された儒教の宗教化運動が朝鮮でも展開したことであった。当時の中国知識人が懸命に取り組んでいた「民族の危機」「民族の独立」という問題意識を、朝鮮知識人も全面的に共有した。「民族」という近代的な概念は、西洋からというよりも、中国から受容したと考えなければならない。 (3)日本からもたらされた影響は、もっとも広範にわたるが、日本の啓蒙思想家たちが西洋近代思想を東洋的文脈に移植したとき注目された「国家」や「精神」という概念が、近代国民国家形成期にあった朝鮮にも大きな影響を与えたと考えられる。この二つの概念が結合したとき日本では「大和魂」や「日本精神論」が宣揚されたが、朝鮮でも同様に「国魂」「朝鮮魂」「韓国魂」という近代的ナショナリズムの高揚をもたらしたことは、日本からの影響と考えるべきである。 以上のような西洋・中国・日本から多様な影響を受けながら、朝鮮儒教が本来持っていた「心学的傾向」を発展させ、韓国は伝統的な儒教をきわめて近代ナショナリスティックな「近代儒教」へと変容させていったと考えられる。
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