本年度はマキャヴェツリのL'arte della guerraを考察のおもな対象とした。とくにL.A.Burdの典拠研究からウェゲティウス、フロンティヌス、ポリュビオスのテキストを抜き出し、それらに該当するマキャヴェッリのテキスト部分について《arte》の意味を中心に比較検討した。夏にはルネサンス研究会2002年度第1回研究発表会。(於:埼玉大学)にて学会発表を行い、秋にはボローニャ大学アンセルミ教授、ローザンヌ大学クティネッリ助教授と本書L'arte della guerraの意義をめぐって議論を深めた。現時点における新たな知見は以下のとおりである。 「マキャヴェッリの《arte》は「技術」ではなくむしろ「職業」に近いと考えられること、また当時の人々の生業を念頭に、市民生活を支える仕事の意味で使われている」ことを導いた上で、さらに「傭兵稼業批判に始まりファンタジアに駆られて理想的な市民軍を仕立てながら結局自己の言葉の無力を曝け出すファブリツィオの自己否定的役割から、本書は政治の本務に言及した「職業論」と理解できるのではないかということを指摘した。とくに本書の焦点は、傭兵稼業の剥奪、市民軍の創出、軍事力を防衛力として市民生活(la vita civile)に取り込みその補強として変容し直す責務であり、これを可能とするためにも職業として政治に携わる者がまずもって選び取るべき、生きた言葉を持ち続ける姿勢が、いわば職業倫理として表現された著作である」と考えるに至っている。 上記の内容を目下論文にまとめ、雑誌『ルネサンス研究』第10号に投稿準備中である。
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