本研究の目的は、マキァヴェッリの政治・歴史関連主要著作、『君主論』、『ディスコルシ』著者晩年の作である『戦争の技術』、『フィレンツェ史』を対象に、特に『戦争の技術』における<アルテ=arte>の意義を改めて考察することから、これを基軸に残る三作を読み直し、マキァヴェッリの思想の全体像を再評価することにあった。また付随的に「マキァヴェッリ原文訳文データベース」を完成させホームページに公開するのが当初の構想であった。 成果としては、2003年7月に論文「マキァヴェッリの『戦争の技術』におけるもう一つのメッセージ」をまとめた。『戦争の技術』を中心に<アルテ=arte>の全用例の吟味を通じて、その中でもマキァヴェッリがギリシア・ローマの古典に依拠したことが判明している箇所はL.A.バードの研究書を手がかりに典拠まで遡って<アルテ=arte>の意味するところを比較考察し、マキァヴェッリの<アルテ=arte>の謂いが「技術」ないし「テクニック」でなく、職業としての政治活動の「仕事」そのもののことであり、ひいては本書『戦争の技術=Dell'arte della guerra』からは彼の職業倫理が主たるテーマとして透見されるべきことを述べた。さらに12月には上記の論文をイタリア語に抄訳し、マキァヴェッリの職業倫理の拠り所は彼の人間本性の認識、mezzo bestia e mezzo uomoに基づきおよそ宗教的なるものとは無縁で、むしろその獣的部分をこそ市民生活に変容させていく責務が本書の主題に他ならぬことを述べ、これを土台にアンセルミ教授、クティネッリ助教授との本格的な議論に入る準備を整えた。 「マキァヴェッリ原文訳文データベース」に関しては依然未完成であるが、業者に依頼してあらたに検索システムを構築し、完成までの目途はつけつつあるのが現段階である。
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