昨年に引き続き、民衆の対外観について検討を進めた。本年度は、民衆宗教について、ことに金光教・天理教を中心に自己認識の基礎的検討を進めるために、諸史料の収集を行った。具体的には、『環』13号に「『病気直し』から『教説の時代』へ」と題する論文を発表し、「病気直し」について新しい解釈を試みると共に、近代化の諸問題、近代的学知との関係などについて明らかにし、その自己認識検討のための基本的視点について明らかにした。同時に、『日本史研究』500号に「民衆宗教の宗教化と神道化」を発表し、宗教概念・神道概念の定着と民衆宗教の自己認識、国家神道体制との関係などについて論じた。このほか、「近代宗教制度の暴力」と題する論文を準備し、民衆宗教や復古神道の自己認識の変容について、神観念・神名・神秩序の変容の問題から検討を進めた。 以上によって、概ね史料が豊富な民衆宗教等に関しては、自己認識についての研究は完了したといえる。無論、自己認識をさらに広くナショナリズムとの関連から検討する作業が残っており、来年度はこの点についての検討をまず進めたい。次いで、民衆思想・民衆宗教に関わる他者認識の検討について、未だ紹介されていない史料等を収集しながら検討していく予定であるが、とくに本年なしえなかった朝鮮観の問題を中軸に据える予定である。また、民衆宗教においては欠かせない宇宙観・死生観の問題から、総合的に自他認識を検討する方法を提示して本研究を締めくくることとしたい。
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