本年度は西アジア・イスラーム世界の存在一性論がナクシュバンド会のジャーミー(1414〜1492)においていかに受容されていったか、またその倫理思想に存在一性論がどのように反映しているのかを第一の研究課題として取り上げた。この研究により論文「イスラーム存在一性論と教育思想-ジャーミーの「春の薗」についての考察-」を英知大学論叢サピエンチア38号に発表した。また、ジャーミーの存在一性論と倫理思想が中国イスラーム世界の思想家馬注(1640〜1711)や馬徳新(1794〜1874)の思想に及ぼした影響について文献学的考察をおこなった。その過程で、劉智、馬注、馬徳新ともにクブラウィー会のナジュムッディーン・ダーイェ・ラーズィー(1177〜1256)の著書「信仰者の里程標Mirsadal-'ibad」に見える倫理思想に深く影響されていることが明らかになった。とりわけ馬注の「清真指南」における人間学は「信仰者の里程標」に見えるアラビア語、ペルシャ語の術語がそのまま漢字表記されていることからもその影響の大きさが証明される。この馬注への「信仰者の里程標」の影響については2004年3月7日〜10日に中国雲南大学で開催されたThe First International Symposium on Sayyid Ajall Omar Shams al-Dinにおいて「波斯與雲南回族的万有単一論哲学」と題する研究発表において明らかにした。中国イスラーム思想はジャーミーの形而上学、ラーズィーの倫理思想を吸収し、それらを中国化(儒家思想の衣装をまとわせること)することで成立しているという見通しを得た。
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