研究概要 |
本年度は研究計画の第3年度であり、ジャーミーの存在一性論思想およびクブラウィーヤ派スーフィー思想と中国イスラーム哲学者たちの思想的関連を中心に研究をした。中国イスラーム教徒は20世紀初頭からアラブ世界におこったイスラーム近代化思想の影響を強く受け、伝統的な存在一性論的形而上学を基礎とする倫理思想よりも近代アラブ世界の政治的、実践倫理思想を重視するようになり、存在一性論思想は見捨てられる傾向にあった。しかしながら、その一方で「老教」の伝統を守る人々の間ではジャーミーなどの存在一性論思想が激しい社会変動の嵐を経験しながらも継承されてきた。本年度は北京、天津、保定の清真寺および経堂において現地調査をおこない、華北諸都市のイスラーム教徒がジャーミーの『Lawa'eh』,『Ashi"at al-Lama ‘at』の写本を保存継承して学習していることを確認することができた。最近、中国政府がイランとの関係を重視するようになってきたことで北京大学、雲南大学など中国の主要大学の研究者たちが中国国内に伝承されるこれらペルシャ存在一性論思想に注目するようになってきていることも興味深い現象である。イラン・中国の文化交流はジャーミー思想を媒介項にして近年富に活発化している。馬復初の『道行究境』、『大化総帰』および伍尊契の『帰真要道』の分析をつうじて、「老教」派のイスラーム教徒のマインドセヅトにはクブラウィーヤ派スーフィー倫理思想がおおきな影響を及ぼしていることも明らかになった。伍尊契の『帰真要道』はナジュジュム・ラーズィーの『Mirsad』の訳書であるがこの書物に見える人間四分説は近代の達甫生の思想まで規定している。こうした研究の成果は日本および中国の学術雑誌に発表した。
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