本年度は最終年度であるため、過去三年間の研究により蓄積した知識と資料の分析、公開に研究活動の力点を置いた。過去三年間の研究調査活動により中国イスラーム世界におけるイスラーム存在一性論の体系的受容、およびその中国的発展が、十六世紀末の胡登州(1522-97)の中国イスラーム経堂教育の基本テキスト「十三本経」の制定に起源を持つことが確認された。「十三本経」は8冊のアラビア語の書物と5冊のペルシャ語の書物からなる。そして、このペルシャ語の教科書にイスラーム存在一性論思想派のナジュムッディーン・ラーズィー(1177-1256)の『信仰者の里程標』Mirsad al-ibadおよびジャーミー(1414-1492)の『閃光の輝き』Ashi" at al-lama' atの二書が含められたことにより、中国イスラーム教徒の世界認識が存在一性論の世界観のそれに基礎をおくものとなった。この存在一性論的イスラーム世界観を中国イスラーム教徒が漢語により理解し、表現するようになると、儒教、道教などの中国思想との融合する。それは既に明の嘉靖7年の石碑「来復銘」にも既にあらわれている。そして、漢文による存在-性論思想の表現は王岱輿(1657ころ没)、劉智(1745ころ没)、馬注(1711ころ没)により第一次のピークに達する。そして、同時に中国イスラームの思想家の間にイスラーム思想と儒教思想は矛盾しないという考え方が確立した。この儒教とイスラームの融合の思想をさらに発展させ、イスラーム思想をより儒教化させた思想家が雲南の馬徳新(1794-1874)である。研究計画最終年度である本年度は、このために馬徳新の思想にみえるイスラームと儒教の融合を解明することに重点を置いた。その研究成果は平成17年6月の中国寧夏社会科学院主催の鄭和下西洋與文明対話国際会議ならびに11月の寧夏における文化対話與文化自覚・文明対話国際学術検討会においてそれぞれ「波斯神秘主義哲学與中国穆斯林」と「馬復初和和平哲学的発展」として発表し、注目をあびた。また、本年度に集中的に検した馬徳新思想の研究は研究成果報告書「馬徳新哲学研究序説」としてまとめ印刷した。
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