本研究によって得られた知見として特筆すべき点は、大阪音楽大学所蔵の明治期三味線三巨頭の朱(三味線の楽譜)を人間国宝・七世鶴澤寛治師に繰って頂きその違いを明らかにしたことと、歴史的音源によって現在舞台では聞くことのできない三味線の手を発見したことである。 (1)本研究では『菅原伝授手習鑑〜寺子屋の段』及び『絵本太功記〜尼ケ崎の段』を中心に、基礎資料を収集して分析を行った。さらに東京文化財研究所蔵の「安原コレクション」SPレコードから歴史的録音の音源資料を収集して、近代の演奏・演出様式の変遷について分析した。 (2)文楽三味線の人間国宝・七世鶴澤寛治師による「寺入の段」「寺子屋の段」「尼ケ崎の段」の演奏と芸談をビデオに録画した。さらに八世豊竹嶋大夫師から十世豊竹若大夫に関わる芸談を聞いた。二世豊竹呂勢大夫師には「尼ケ崎の段」の浄瑠璃の実演と芸談をDATに録音した。 (3)文楽研究家の高木浩志氏からは、近代における「文楽の芸の変化」に関わる話を聞いた。後藤静夫氏からは、「文楽協会〜国立文楽劇場」を通しての文楽の質的変化と、「古典」と「新作」に関する話しを聞いた。そして坂本清恵氏には「尼が崎の段」の語りの音声分析を依頼して、近現代における義太夫節の語りの変化について共同研究した。 なお、研究成果の一部は拙稿「義太夫節の声」(教育芸術社)「文楽を聴く 義太夫節の音楽的特徴を考える(1)〜(4)」(日本芸術文化振興会)等で公表した。
|