本研究の目的は、研究者の現実世界における<経験>を基盤に社会の矛盾を追及するTh.W.アドルノの音楽批判理論と、音楽社会学的・民族音楽学的フィールドワークとを基盤に、現代のグローバル化の状況において世界各地に生じている様々な矛盾を明らかにし、批判するための音楽批判理論を構築することにある。 1.当該研究期間中に訳書1冊(アドルノ前半生の集大成である『新音楽の哲学』出版予定)をほぼ完成、論文7篇(「アドルノ理論と民族音楽学」・「ベートーヴェンの<後期様式>をめぐるアドルノの思索とその源泉」・「グローバル化時代のアドルノ理論」・「比較文明学の課題としての<音楽>もしくは<音文化.>」・"Globalization and Musicology"・「音楽の東西-比較美学的に見た音楽の存在形態の本質的差異と無形文化財の意義」(日・英2種)・「パン・アフリカン・ミュージックと現代の音楽文化」)を完成させた。論文はすべて出版済みもしくは出版予定である。2.国際会議での発表を2回(日本音楽学会50周年記念国際大会および第3回日伊世界文化遺産研究会)、国内学会での研究発表を3回(比較文明学会、ポピュラー音楽学会、日本音楽学会大会)行った。3.音楽のグローバル化に関わる海外フィールドワークを5回(中国新疆ウイグル自治区におけるウイグル民族の伝統音楽の現状調査2回、9.11の1年後のニューヨーク、ロシアにおける観光と音楽、セヴィリアの聖週間)、その他の海外国際会議出席および研究資料収集を4回行った。 この研究はさらに続行しているが、今後は観光化や少数民族の問題に加えて、アジアのイスラム社会の音楽文化と西欧的近代文明との相克にも焦点を置きたいと考えている。
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