研究作業としては、(1)5度にわたる津和野における調査(主に亀井温故館において所蔵品・史資料)、(2)3度にわたる東大総合図書館所蔵亀井文庫の調査、(3)東京の渋谷区立松涛美術館(2度開催された亀井コレクション展の図録閲覧)、および(4)国会図書館憲政史料室における西周文書の閲覧、そして(5)ヨーロッパにおける亀井茲明の足跡の追跡調査(ベルリン、ドレスデン、ミュンヘン、トリノ、フィレンツエ、ローマ、パリにおいて、亀井に関する資料調査・収集;森鴎外記念館(ベルリン)、ベルリン・フンボルト大学図書館、等にて調査)を行った。その成果としては、(A)亀井茲明の精神風土としての津和野の歴史、とくに近代日本における、さらに特に明治維新政府における津和野藩関係者の役割・貢献について再認識、(B)亀井茲明をめぐる人的ネットワークの範囲、とくに亀井茲明と西周・森鴎外との関係の重要性、(C)亀井の美学・美術上の関心が当時のドイツ学に影響されていること、ドイツの中でもとくにプロシャ、そしてベルリン大学における精神的及び学問状況が彼の研究を導いていることを理解、(D)亀井茲明の自筆文書の所在・行方等の情報の整理(草稿類は第二次大戦の戦災によって焼失したが、書簡類は亀井家が保存)、そこで、写真・染織といった亀井茲明コレクションの分析は木下直之氏を代表とする研究グループがめざすのに対して、本研究では彼の美学的関心を解明するという方向付けを再確認した。しかし、一次資料に即しての亀井茲明の美学的関心の実態解明にはさらなる原資料の解読ないし発見を要することを理解したので、そこで、本研究期間中に公表をめざした研究成果は、彼の美学史的位置がより明確になるように、彼の周辺の美学史(西周・森鴎外・二葉亭四迷・高山樗牛など)の追跡が主たるものである。
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