本来はフィルムであるところの小津安二郎テキストに直接接する機会は残念ながら限られている。そこで本研究では主にビデオやLDを使用している。実はこれらにはフィルムにはないメリットもある。それは自在に止めたり戻したり出来ること。つまりビデオ使用により、長らく記憶と印象に頼りがちだった映画論は書物と同様な分析が可能になったのだ。 本研究ではこのまだ未発達のビデオによるテキスト分析を採用する。また、それを助ける目的でロケ地や関連の場所を訪ねる臨地調査を行った。平成14年度は広島県・愛媛県・岡山県・東京都・群馬県・長野県・三重県・神奈川県を訪れた。 各地での成果は順次発表されるが、一二触れれば、瀬戸内海の大久野島毒ガス資料館では旧日本陸軍の毒ガス兵器について多くの知見を得た。小津は中国大陸で毒ガス作戦に従事したが、そのことと小津の作品等の関連に触れた研究はほとんどない。三重県飯高町では小津が宮之前尋常小学校の代用教員だった時の教え子柳瀬才治氏から当時の様子を聞くことが出来た。 年度内に発表した論文(「痙攣するデジャ・ヴュ--ビデオで読む小津安二郎--(7)『東京暮色』--女たちに降る雪は--」『北海道武蔵女子短期大学紀要』35)では、これまで失敗作とされてきた『東京暮色』を「東京物語」と相補的な位置を占める傑作であることを主張した。ほかに小津関連の短評や書評がある。また、平成15年夏にはまとまった成果として『はじめての小津安二郎』(PHP新書)が刊行予定である。
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