2003年は、小津安二郎にとって生誕100年、没後40年の特別な年であった。国内はもとより、ドイツ、香港、アメリカなどで映画祭特集や回顧上映が組まれた。本研究もその恩恵に浴した。 臨地調査で訪れたのは、三重県、愛知県、東京都、神奈川県、島根県、長野県であった。本補助金以外であるが、ニューヨーク映画祭に参加した。アメリカ人の反応を直に見ることが出来たのは大きな収穫であった。各臨地研修地では昨年同様多大な収穫や発見があり、順次論文等に生かされる。小津ハマ、井上和男、柳瀬才治、三上真一郎各氏をはじめ、小津安二郎ゆかりの人々から取材することも出来た。 年度内に発表した主要論文は「痙攣するデジャ・ヴュー-ビデオで読む小津安二郎--(8)『お早よう』--放屁とテレビ--」(『北海道武蔵女子短期大学紀要』36)。本論において、高度経済成長期に大きく変容した日本の生活をテレビをはじめとする家庭電化製品の普及を通して考察した。また、放屁文学という観点から『お早よう』を位置づけようと試みた。映画作品における放屁というテーマはまだ手付かずであるが、これを端緒としていきたい。 過去10年の小津研究のまとめとして『小津安二郎・生きる哀しみ』(PHP研究所)を刊行した。映画研究がビデオの登場によって飛躍的に進化したという主張の上に、小津作品を書物同様の方法で分析したもので、これまでの映像論を批判・超越するものである。
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