平成14年度は、(1)「オマージュ、マニフェスト」、(2)「ボヘミアン芸術家像」という二つのテーマに取り組んだ。(1)に関しては、ファンタン=ラトゥールの集団肖像画《ドラクロワ礼讃》(1864)、と《乾杯(真実礼讃)》(1865)について徹底的に調査した。ファンタンの書簡や準備デッサンを調査して当初の構想を明らかにし、サロン批評を網羅的に調べることで、これらの作品の当時における判断、評価を明らかにすることができた。さらに、絵画のみならず版画や写真をも博捜することで幅広い芸術家像の中で、芸術家集団肖像画としての特質を、主題と造形の両面から分析することができた。画家ドラクロワや、「真実」の寓意像に対する礼讃というテーマを通して、ポスト・レアリストとしての美学的な主張が成されている点が浮き彫りにできたと思われる。(2)に関しては、ルノワールの《アントニー小母さんの酒場》(1866)とマネの《芸術家》(1875)を取り上げた。「ボヘミアン芸術家」という19世紀に特有の芸術家像に関しては、アンリ・ミュルジェールの小説『ボヘミアン生活の諸情景』や社会史的な資料を探索することで、その文化的な背景を押さえることができた。その上で、パリの芸術家酒場、フォンテーヌブローの芸術家村の実態を、回想録や地図も含めた多様な資料を駆使して浮かび上がらせ、ルノワール作品の意味を分析した。マネ作品では、単なるボヘミアンを越えた創造的な芸術家像の典型を表現している点を、当時の批評の調査と図像学的なアプローチによって解明し得た。また、本研究に関連する編著として『自画像の美術史』を2003年3月に上梓した。その中では、ファンタン=ラトゥールの自画像の分析も行われている。 以上の研究成果は、最終的な報告書の中にすべてまとめる予定である
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