平成15年度は、(3)「肖像画」、(4)「アトリエ」という二つのテーマに取り組んだ。(3)に関しては、主たる対象としてカロリュス=デュランの《ファンタン=ラトゥールとウルヴェイ》とファンタンの《マネの肖像》(1867)に関して詳しく調査した。カロリュス=デュランの二重肖像画においては、発想源の問題を通じてルーヴル美術館所蔵の絵画作品との関係を明らかにすることができた。ファンタンの《マネの肖像》については、サロン評とゾラの美術批評を調べることによって、アカデミスムに対するマネの態度を反映した肖像画であることが論証できた。それ以外にも、同時代の自画像、単独の人物像を描いた肖像画、ダブル・ポートレートなどを幅広く探索し、有用な比較作例を収集した。 (4)に関しては、主たる調査対象としてバジールの《コンダミンヌ街のアトリエ》(1870)とファンタンの《バティニョールのアトリエ》(1870)を取り上げ、西洋絵画におけるアトリエ図像の系譜を踏まえた上で、1870年に制作されたこの2点のアトリエ画を詳しく分析することができた。バジールの作品では、仲間の集まりを描いた親密な雰囲気の内にも、アトリエ内の私物に対するバジールの執着や、外光下の人物像表象という野心をめぐる画面構成が見られることが解明できた。ファンタンの作品では、ポスト・レアリスムから印象派の世代への移行そのものを体現するイメージとして、虚構のアトリエを舞台にマネを中心とする芸術家集団が描かれたことを示すことができた。 最後に、平成14年度の調査研究と合わせて四つの問題系を扱うことで、第二帝政期のフランス絵画における芸術家像の意味を考察し、近代絵画史の文脈において有意義な結果を出すことができた。
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