16世紀美術の特質を考えるうえで、狩野元信を中心とする初期狩野派の作品制作の状況を考察することは、その中心的課題になる。2002年度は、妙顕寺所蔵の文殊普賢図対幅(奈良国立博物館保管)を調査・研究し、この作品が16世紀中頃、天文法華の乱で逃れた日蓮宗寺院が京都へ戻った折に、狩野元信によって妙顕寺に描かれた壁貼付絵であること論じた(「妙顕寺本文殊普賢図について」)。この作業により、16世紀中頃の日蓮宗寺院において、狩野派の画家たちが積極的に絵画制作をおこなっていたことが明らかになり、臨済宗、天台宗などと同様に、法華宗寺院との関係を考察することにより、初期狩野派の絵画制作の実態が明らかになってゆくことが判明した。また、2003年2月5日から13日まで、アメリカ合衆国のシアトル美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ポートランド美術館で、狩野派・土佐派、風俗画、仏画など16世紀を中心とする時期の絵画についての調査をおこなった。この調査での成果は、次年度以降に発表してゆく予定である。
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