今年度は、16世紀を中心とする時期、言い換えれば中世から近世にかけての時期の絵画の変化を、つぎの4項目を中心に考察した。それは、(1)詩歌の絵画化に関する中世的表現と近世的表現の相違、(2)近世初期風俗画を生み出す要因となった中世絵画の様相、(3)画面形式の変化とその意味、機能の変化の関係、(4)戦記文学とその絵画化の変遷、である(『中世日本の物語と絵画』収録)。この4つの問題意識は、相互に関連するところも多いが、要約すれば、(1)生活空間の変遷、(2)宗教の庶民化、という、中世から近世への移行期におこった二つの大きな変化に起因すると考えられる。(1)に関しては、床の間の成立、屏風形式の定着といった従来指摘されている点を確認する作業を中心におこなった。(2)に関しては、これまで研究を続けている釈迦堂縁起と真如堂縁起という二点の縁起絵巻を対象として、その構図分析と絵解の関係を論述し、また、参詣曼茶羅と縁起絵巻の関係についても言及した。さらに、鎌倉時代以降の祖師伝絵巻と室町時代の縁起絵巻とを関連づけることにより、中世から近世への移行期における宗教絵画の特質について考えた。また、詩歌の絵画化に関しては、和歌については、16世紀から制作されるようになる「扇の草子」を、漢詩については、15世紀に流行する詩画軸形式の絵画を検討し、それぞれを関連づけることにより、中世末から近世初期にかけての絵画と文学のかかわりを考察した。
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