本年度は、研究発表としては、2005年5月の意匠学会例会で「モノを描く、モノに描く-16世紀における「絵画の変」(2)-」と題した口頭発表をおこない、その内容を『デザイン理論』47号にまとめた。ここでは、本研究課題の総括のひとつとして、16世紀になると顕著になる器物を絵画化する傾向について、その具体例を「扇の草子」と貝合せの合貝から考察し、同時にその背景を歴史的に考察した。また、口頭発表の折には、やはり16世紀から17世紀に顕著になるモノの形状を画面とする一連の絵画についても分析した。この点については、前記論文では触れることができなかったので、報告書にその詳細をまとめる。また、2006年3月に刊行された『日本の伝統文様』(東京美術)においても、扇の草子や器物の絵画化の問題をあつかった。 2005年11月には風俗史学会大会で「豊臣秀吉と風俗画-京大坂図屏風(大阪歴史博物館蔵)をてがかりに-」と題した口頭発表をおこない、京大坂図屏風を対象に、豊臣秀吉が16世紀における風俗画の盛行におおきく関与したことを論じた。豊臣秀吉と風俗画との関係についてあきらかにすることは、本課題で当初から問題にしていたことのひとつである。この点についても報告書に詳録する。 以上の2発表は、16世紀美術の特質について、ふたつの異なるアプローチによる成果を示したものである。 さらに、今年度は国内外に所蔵される韃靼人主題の絵画の博捜をおこない、韃靼人主題が15世紀世紀末から16世紀にかけて、おそらくは中国からわが国に伝来し、それがさまざまな形式で絵画化されてゆく過程についての調査をはじめた。この点については、個人蔵の1作品についての論考を2006年4月に『MUSEUM』に投稿予定である。韃靼人主題のような、中国主題の受容とその絵画化も、16世紀の絵画のあり方を考えるうえで重要な課題のひとつであり、四季耕作図、帝鑑図などと考え合わせることにより、この時期の絵画制作の実態が明らかになると考えており、今後もこの点についての研究を進める予定である。
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