メディチ公国において活躍したヴィンチエンツオ・ダンティの芸術論テクスト『完全比例論第一書』の美術史的意味を、公国の芸術環境との関わりの中で解明すべく、平成14年度に引き続いて、当時の諸芸術論、すなわちアレッサンドロ・アッローリの『素描の規則』、ベンヴェヌート・チエリーニの『素描術学習の原理と方法』その他の原典資料を用いて分析を進めた。またとくに、『完全比例論』同様アリストテレス『詩学』の感化を受け、『完全比例論』とまったく同時期に著されたフランチェスコ・ボッキの『アンドレア・デル・サルトの卓越性について』に新たに着目して、その比較検討をおし進め、ダンティの当該テクストの邦訳を完了した。 さらにダンティの芸術論の理解にとって不可欠な、メディチ公国の文化環境や、イタリア前近代の芸術理論、同じく美術アカデミー全般への理解を深めるべくつとめ、これらに関して一定の成果を得た。 とくにダンティ自身については、フィレンツェ到来後の足跡を、コジモ公国の芸術環境から明らかにすべく、当時の対抗宗教改革の芸術思潮の中で、マニエラの彫刻の可能であった所以や、コジモ・バルトリのテクスト『ラッジョナメンテイ・アカデミチ』その他から推測される16世紀後半のフィレンツェの彫刻状況の変容を意識しつつ、これを分析し、フィレンツェ到来直後のダンティはジョルジョ・ヴァザーリやスフォルツア・アルメーニと結びつき、前者の芸術パルタイの一員であっていまだ独自の様式を形成するまでには至っていなかったこと、またやがてネプチューン像コンクールや、後者のために制作した《虚偽に打ち勝つ名誉》によって純粋マニエラの芸術を作り上げて名声を確立するとともに、やがて『完全比例論』を執筆する外因のひとつをなしたことを示した。このうち、印刷費用の都合上、成果の一部を平成14・15年度科学研究費報告書として公刊した。その他のダンティ関糸の成果は本年度中に公刊される。
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