本年度は主に1925年以降のクレー批評史の中から、シュルレアリスト就中マックス・エルンストとの関係を調査する上で重要と思われる著作と展覧会の詳細を調査し、必要な資料の閲覧、写真複製の制作、整理を行った。主な成果は以下の通り。 1)、1925年11月、パリのピエール画廊で開催された「第一回シュルレアリスム絵画展」以後を起点とし、1931年、カール・アインシュタイン、ハンス・ヒルデブラント両者によるクレー評を終点に設定した、ドイツにおけるパウル・クレー評価の変遷の「シュルレアリスム」運動との関連からの整理。 2)、1927年から1929年にかけて行われたクレー個展のカタログ、展覧会評、クレーに関する評論等に基づいた、主にドイツ語圏におけるクレー批評の実態整理と分析。 上記二点の考察によって本研究におけるこれまでの方向性がより明確になるとともに、クレーおよびマックス・エルンストの独仏における評価の違いとその微妙な相関関係がナショナリズム台頭期ドイツの美術批評史という問題圏に極めて重要な資料を提供することが明らかとなった。以上の成果は今日までいかなるクレー研究においても明確な問題として意識されて来なかったものであり、本研究のオリジナリティを保証するものと言って良いだろう。
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