まず制作背景に律宗が関わる美術作例として、融通念仏縁起に焦点をあて、禅林寺所蔵(京都国立博物館寄託)の調査を行い、律宗寺院である法金剛院に伝来する大念仏絵巻との比較検討を行いった。詞書筆者・智忠親王、そして絵師・住吉如慶について考察し、制作背景にある円覚上人導御をとらえなおした。その研究成果は平成14年度、美術史学会東支部例会(11月30日・土、於東京国立博物館)にて口頭発表を行った。 次に西大寺流の西国寺院の代表的な末寺として尾道・浄土寺に注目し、伝来する作例の調査を行った。千手観音菩薩画像、宝珠・不動・愛染三幅一対、木造不動明王坐像、後醍醐天皇綸旨などである。宝珠・不動・愛染三幅一対は密観宝珠と称される形式で、西大寺流に関係するものと注目されるが、制作背景など問題とすべき点が多い。また、木造不動明王坐像は、同じく備後国の西大寺末寺である明王院の不動明王立像との様式関係や河内金剛寺の不動明王坐像との形式関係などから今後検討していくべき課題と理解した。 また、現在は文観房弘真の付法者についても調査を進めている。諸資料に乏しい弘真であるが、付法者を考えることで、弘真の足跡の一端を解明している方向で考えている。
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