本年はボストン美術館にて文殊菩薩画像2幅、また、メトロポリタン美術館にて文殊菩薩画像及び八字文殊曼荼羅の計3幅、細見美術館にて虫歌合絵巻2巻、奈良国立博物館にて如意輪観音菩薩印仏3巻、西大寺にて伊勢神宮御正体1基、東京国立博物館にて室泉寺寄託の興正菩薩叡尊画像1幅などの実査を行った。いずれも35ミリのポジフィルムを用いて撮影し、必要に応じて紙焼きキャビネ版とした。 ボストン美術館では八字文殊画像について江戸時代とされているが、実査によって、その制作年代をさかのぼらせることの出来る点を想定した。また、メトロポリタン美術館本ではその1幅が墨書銘などからも西大寺流に関連させて考えられる可能性を見いだした。細見美術館本については、住吉如慶との関連で調査をしたが、如慶筆との確信を残念ながら得られなかった。奈良国立博物館の如意輪観音印仏については、その印捺者である真海が室生寺中興二世であり、しかも西大寺流の真言僧・文観房弘真の付法者であることが判明した。また、般若寺伝来ともされており、この印仏巻子が西大寺流に関係する美術作例であることを明らかにできた。今後これを手がかりに室生寺の鎌倉時代末期おける西大寺との関連を考えてみたい。西大寺蔵の伊勢御正体についてはその種子曼荼羅が従来言われているような仏眼曼荼羅と愛染曼荼羅ではなく、仏眼曼荼羅と大勝金剛曼荼羅の可能性があること、それは『愉祇経』所説であることが想定されることが判じられた。さらに考究してみたい。室泉寺本の興正菩薩叡尊画像については、上方に絵絹とは別に紙本墨書の讃文があるが、その筆跡について現在分析をしている。この筆者が判明することで、さらにこの画像の制作背景が明確になると思われる。 以上、15年度は西大寺流に関わる作例の実査につとめ作品データの収集と、その制作背景について考察をすすめている。
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