この基礎研究では実査を中心とし、明らかになったことを実績とした。実査にて実績があったものは以下の通りである。 広島県・浄土寺 宝珠・愛染・不動三尊画像、木造不動明王坐像、十一面観音画像、後醍醐天皇綸旨、以上4件。 奈良県・西大寺 木造地蔵菩薩像内納入品、伊勢神宮厨子、以上2件。 奈良国立博物館 紙本墨画文観房弘真筆日課文殊菩薩図、紙本墨印如意輪観音菩薩印仏、以上2件 メトロポリタン美術館 絹本着色五字文殊画像、絹本着色八字文殊画像、絹本着色八字文殊曼荼羅、以上3件 ボストン美術館 絹本着色五字文殊画像、絹本着色八字文殊画像、以上2件、 京都・禅林寺 紙本着色融通念仏縁起、以上1件、 京都・個人蔵 紙本着色『百万』以上1件 兵庫・常楽寺 石造五輪塔 3件、兵庫・報恩寺 4件 他 いずれも西大寺を中心とした作例であるが、中でも焦点をあてたのは、『太平記』などによって怪僧の烙印を押された文観房弘真である。播磨出身で、西大寺長老二世信空に灌頂を受け、さらに醍醐報恩院の道順に付法を受けた。後に後醍醐天皇に灌頂を授け、護持僧となって南朝に尽くした。直接的な作例は奈良国立博物館の日課文殊菩薩図であるが、その他にも弘真の付法関係や関係したと思われるものに、浄土寺の作例や奈良国立博物館本如意輪印仏などがある。いずれも文観房弘真の悲母供養や追善供養、文殊・観音に対する篤き信仰を物語るものであり、また、西大寺流律僧としての立場から造像したものである。一方、文観房弘真は醍醐報恩院流の法脈を受ける真言僧であるが、それは宝珠に、また、如意輪観音菩薩に記された種子などからも事相僧としての姿を読み取ることができる。 従来の美術史の研究では律僧に焦点をあてたものはない。中世史の分野では律僧の様々な活動について論じられている。美術史では寺院や経典、思想などを基軸として作例が論じられることが多かったが、この基礎的研究では西大寺叡尊以降に活躍した律宗とその造像活動について、新たな視点から作例を調査し、基礎的研究となったことと思われる。
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