大火後の『ドイツ人商館』再建は1508年8月に竣工した。その外壁を飾ったフレスコ画は事実上消滅してしまい、1937年と1967年に壁面から剥離して、現在はヴェネツィアのアカデミア美術館とフランケッティ美術館他に損傷した僅かな断片が所蔵されるにすぎない。当初の状態を推測するには、まずこれらの現存断片の検証に加えて、史料図像と文献テキストとを渉猟しなくてはならない。現段階までの作業で明らかにできた画像類は 1.現存断片 ジョルジョーネ:《裸婦立像》、ティツィアーノ:《ユスティツィア》(《ユディト》)、《ギガンテスと怪物の闘い》、《トリトンとプットー》、《プットーと怪物の闘い》、《レヴァント人》、《オリエント人》、《紋章》、《カルツァ・クラブ会員》 2.史料図像(現存断片作品以外の)ジョルジョーネ:《坐る若者》(Zanetti版画)、《坐る裸婦》(同)、ティツィアーノ:《カルツァ・クラブ会員》(Zanetti版画)、《女性胸像と頭-手のトルソ》(同)など 3.文献テクスト《天使のかしずく女性》(Vasari)、《獅子の首をしたがえた男》(同)、《戦利品、青年、頭部、地球を測定している幾何学、円柱の間の騎乗人物、空想物》(以上ジョルジョーネ)、《裸足を見せる裸婦》、《帆のようなものをもつ若者》(以上ティツィアーノ)など(Ridolfi)、《アラベスク》、《イヴ》、小塔壁のふたつの《裸婦》など(Milesio)である。これらの画像がどの壁面にあったか、それらはなにを意味していたか、ジョルジョーネとテッィツィアーノの分担と制作時期、そして二人の作品の様式の違いはどこに認められるか等が今後の問題となる。
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