ヴェネツィアの旧『ドイツ人商館』の大運河側の西壁面とメルチェリーア側の南壁面には、ジョルジョーネとティツィアーノとが描いたフレスコ画があった。文献史料で語られている描写物をも加えて、両壁面の当時の状態を推測すれば、概ね次のような制作分担と画面配置になるものと思われる。 大運河側壁面 ジョルジョーネ作:《裸体立像》(ヴェネツィア、アカデミア美術館)、《裸婦立像》(ザネッティ版画)、《座る若者》(同)、《座る裸婦》(同)、《天使にかしずく女性》(ヴァザーリ)、《獅子の首をしたがえた男》(同)、《戦利品、青年、頭部、地球を測定している幾何学、円柱の間の騎乗人物、空想物》(リドルフィ)、《弓をもつキューピッド》(素描、ニューヨーク)、《有翼のプットー》(フレスコ断片)(ソルトウッド城)。 メルチェリーア側壁面 ティツィアーノ作:《ユディト》(ヴェネツィア、フランケッテイ美術館)、《ギガンテスと怪物の闘い》(同)、《トリトンとプットー》(同)、《プットーと怪物の闘い》(同)、《紋章》(同)、《レヴァント人》(修復中)、《オリエント人》(同)、《カルツァ・クラブ会員》(ヴェネツィア、パラッツォ・ドゥカーレ)、《カルツァ・クラブ会員》(ザネッティ版画)、《二人の裸婦》(同)、《裸足を見せる裸婦》、(リドルフィ)、《帆のようなものをもつ若者》(同)、他。 1508年ないしは09年には完成したと考えられるこれらの壁画の統一的主題内容は不明である。しかし《ユディト》(《ユスティツィア》)のような中心画面には、当時ヴェネツィアが置かれていた時代状況にかかわる特定の意味が込められていたと解される。これは、絵画様式の問題とともにこれから究明すべき課題である。
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