研究概要 |
本年度は、提出した研究計画に基づき、16世紀から17世紀にかけてイタリアで出版された主要な美術論における「歴史(historia)」と「詩(poesia)」の区別を検討した。16世紀半ば以降、美術論が修辞学的文学論の枠組みで論じられるそのやり方が硬直化して行くが、その過程で「主題」と「表現」の関係も明確に規定されて行くことが改めて確認された(これが「歴史」と「詩」両ジャンル区別の基礎となることは言うまでもない)。また、こうした考えが対抗宗教改革期の美術論争(ラファエロ・ボルギーニ,ジリオ等)を通じて知識人たちの間に普及したととも推測された。17世紀初めのローマを代表する知識人の一人カッシアーノ・ダル・ポッツォにおいてこうした絵画観がどのように現れているか、プッサンとの関係を含めて考察し、論文として公表した。 一方ドメニキーノに関しては、基礎的資料である、同時代に著述された伝記を邦訳し、詳細に検討することを行った。その最初のものとして、G.P.ベッローリによる伝記を邦訳、解説をつけて論文化し、公表した。その結果、ベッローリによる「ドメニキーノ伝」においても、作品の主題によって「歴史」と「詩」がはっきり区別されていること、歴史画家としてのドメニキーノについて、その適切な表現(expressione)と適正さ(convenienza)が特に高く評価されていることを確認することができた。
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