研究概要 |
事象関連電位(ERP)および光脳血流反応(CBF)によってヒトの表情認知の研究を行った。ERPを指標とする表情認知の研究においては、次の2つの事実が明らかになった。第1は、順応パラダイム(変化パラダイム)を用いて、表情認知に対するERPの計測を行った場合、笑顔及び怒り顔に対してP310成分(頂潜時が310msの陽性成分)が頭蓋頂点(Cz)を最高振幅として特異的に出現することを明らかにした。この成果は、日本心理学会第66回大会(2002)及び「生理心理学と精神生理学(Vol.20,No2)」に発表した。第2は、同じく順応パラダイムを用いて、真顔から笑顔および怒り顔(先行する顔と同一の顔、表情変化)、笑顔あるいは怒り顔から笑顔あるいは怒り顔(先行する顔と異なった人の顔、人物変化)、真顔から笑顔および怒り顔(先行する顔と異なった人の顔、人物変化と表情変化)の3条件でERPを計測し、P310成分のみでなく、顔の符号化に特異的と考えられていたN170成分にも表情の変化(特に笑顔への変化に対して)の影響が明瞭に現れることを見出し、表情が後側頭部における顔処理の早い段階で処理されることを示唆した。この成果は、NeuroReport(2004,Vol.15)に発表した。CBF(NIRSによる計測)を指標とする研究においては、次の事実が明らかになった。第1は、中心視野に真顔、怒り顔、笑顔を順応パラダイムによって提示した場合、CBFのtotal-Hb, oxy-Hb, deoxy-Hbともに有意差は見られないが、左、右視野に提示した場合、刺激視野と対側の頭頂後頭部位のoxy-Hb濃度が、怒り顔の場合減少し、笑顔の場合増加する。同側の頭頂後頭部位にはこのような変化は見られない。第2は、真顔の場合、左頭頂後頭部位のoxy-Hb濃度が減少し、右頭頂後頭部位のoxy-Hb濃度が増大する。また笑顔の場合、右頭頂後頭部位のoxy-Hbの増加が左頭頂後頭部位のoxy-Hbの増加に先行する。なお、表情認知に伴う情動変化の持続性成分の析出を課題として残した。
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