研究概要 |
雄マウスにおける隔離飼育の影響が他個体との身体的接触の欠如から生じるという考えがある.隔離飼育された雄マウスでは触刺激に対してのみ過敏反応が生じたという報告がある.隔離飼育による攻撃増加は,このような触刺激に対する過敏反応によって個体間の社会的相互作用がより激しくなった結果生じるという説明が提出された.しかし一部の研究者は,雌との同居によっても隔離個体と同等かそれ以上の攻撃が生じることから,触刺激の単なる欠如による説明は不十分であると指摘した.ところが,雄間の社会的相互作用について隔離飼育による変化と雌との同居による変化が異なるという報告が複数あり,そうした批判それ自体が的はずれである可能性がある.そこで,今年度は,攻撃を含めた雄間の社会的相互作用について,隔離飼育と雌との同居による変化を居住者-侵入者手続きを用いて比較検討した. ICR/JCL雄マウスを7週齢の時点で隔離あるいは雌との同居の2条件に分け,2週間飼育した後,連続9日間,暗期に赤色照明下で侵入者テストを行なった.侵入者は集団飼育したICR/JCL雄マウスであった.テスト時間は10分で,攻撃潜時および25種類の行動項目の生起頻度をビデオ記録から調べた.その結果,攻撃潜時は雌との同居条件において2-4日目で減少し,隔離条件に比べより短くなった.また有意差はなかったものの,攻撃量についても雌と同居した雄で多く,すべてのテストで攻撃を示した個体数も隔離条件の0匹に対して,雌との同居条件では8匹中6匹にのぼった.さらに,臭い嗅ぎ,社会的毛づくろい,追従といった社会行動成分は隔離雄で多く,すくみ反応は6日目以降隔離条件で増加し,雌との同居条件より多くなった.このように,隔離飼育と雌との同居ではその社会行動に対する影響に違いがあることが居住者-侵入者手続きにおいても確認された.
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