本研究の目的は、視覚認知における「量的形勢判断」過程を、特徴分析、ダイナミックス、効率分析といった観点から検討し、最終的には、数量処理の脳内モデルの一部を形成することである。 研究成果は下記の通りである。 1 量的形勢判断と特徴検出 視覚的探索課題の知見から得られた、ポップアウト刺激と非ポップアウト刺激を用いて、量的形勢判断課題を行った結果、ポップアウト刺激の数は過大評価されることがわかった。このことから、量的形勢判断過程への、前注意課程の関与が確認された。 2 量的形勢判断のダイナミックス 2群の構成要素の数が時系列に変化する2種の量的形勢判断課題を検討した。 (1)等比率推定課題では、スタティックな課題と比較して、形勢判断の感度が低下することが示された。 (2)等比率からの逸脱推定課題では、等比率推定課題と比較して、識別率がかなり低下した。 これらは、ダイナミックイベントにおけるサンプリング精度の低下と履歴過程の関与を示すものである。 3 視覚的サンプリングによる統計量の推定 2群の刺激群の刺激強度平均値推定といった量的形勢判断課題で、継時サンプリングと同時サンプリングの特性を検討した。その結果、統計的効率から推定されるサンプリング数は、継時サンプリングの方が少なく、これは、Sequential Analysisによる予測に適合した。 4 高齢者のリスク判断の検討 視覚的ギャンブリング課題という、量的形勢予測課題を用いて、高齢者と若年者の課題遂行方略を検討した。その結果、高齢者は若年者と比較して、課題遂行中のデータを基にした選択方略を採用することが困難であることが示された。これは、ワーキングメモリーの機能低下に関係していると推測された。
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