研究概要 |
鳥類,特にインコ・オウム目は,人と同様に音声によるコミュニケーション能力に秀でた動物である。本研究の鳥を被験体とした実験では,これに属するセキセイインコの音声コミュニケーション行動を神経行動学的アプローチで解析した。 昨年度と同様に,雌のセキセイインコを防音箱の中に入れ,同種の雄のWarble Song(以下Song)を聞かせ,認知的な情報処理を行っている脳の部位を検討した。この結果,昨年度明らかにしたNCM以外にも,高次聴覚関連野のNILニューロンにおいて,最初期発現遺伝子Zenkの産生物であるZENKタンパク質(ZENK)の発現が観察された。また,刺激Songの複雑度が増すにつれて,NILのZENK発現細胞数が増加した。すなわちNILにも,同種のSongに特異的に応答し,その複雑度に依存した応答を示すニューロンが存在していた。 魚類の研究では,振動性刺激に対する認知処理の行動的特徴を明らかにするために,キンギョを被験体とし,刺激弁別能力をこれまで検討してきた。これまでの研究では,微妙な音の弁別課題と視覚的刺激弁別の2種類の弁別学習課題を利用してきた。 本年度は,縞模様の弁別課題に主眼を置き検討を行なった。縞模様は,振動的錯視を生ずる刺激として知られ,視覚的振動刺激とでも言うべきものに相当する。以前の研究で,キンギョは水平(白黒縞模様)刺激と垂直刺激を容易に弁別することができた。水平刺激と垂直刺激は,方向が90°異なる。もし方向情報を主に弁別の手がかりとして利用しているのであれば,同じ90°違いの関係になる,右下がり45°刺激と左下がり45°刺激とを,容易に区別するはずである。しかし,実験の結果,右下がり45°と左下がり45°の弁別が悪くなった。このことは,(水平或いは鉛直方向からの)角度が似てくると判断の混乱が生じたことになり,角度情報を多く用いていることを示している。
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