研究概要 |
これまでの精神神経免疫学の知見より,急性ストレス負荷によって一過性の免疫変動が生じることが知られている.本研究では,そうした現象におけるストレス刺激のコントロール可能性という心理的要因の影響について検討し,その生理心理学的メカニズムを探求することを目的とした. 平成14年度においては,実験課題(時間圧を伴う暗算課題・騒音回避課題)の妥当性を検証した.両課題を10〜15分負荷することによって,交感神経系活動(心拍・血圧)の亢進とともに,細胞性免疫(NK細胞)・粘膜免疫(唾液中s-IgA)の亢進,液性免疫(T細胞,B細胞),の抑制という免疫変動のパターンが頑健に生じることを明らかにした.これにより,急性ストレス負荷による実験パラダイムを確立した. 平成15年度においては,両課題において,課題中のパフォーマンスに関するフィードバックをヨークトすることにより,コントロール可能・コントロール不能を操作して,その要因が免疫系へ及ぼす効果に関する検討を行った.両方の課題において,コントロール不能な場合にはコントロール可能な場合に比べて,交感神経系活動が顕著に亢進した.一方,免疫系においては,課題による細胞性免疫の亢進,液性免疫の抑制という変動パターンは頑健にみられたが,コントロール可能性の効果はみられなかった.しかしながら,コントロール不能な場合には,交感神経系活動と免疫変動にきわめて高い相関がみられ,この条件下では自律神経系による末梢免疫の制御がより顕著になることが示唆された.今後,コントロール可能性に関して中枢においてどのような処理がなされ,末梢の免疫系活動が修飾されるのか,そのメカニズムの検討が必要であろう.
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