研究概要 |
マイクロスリープ(microsleep : MS)の行動的および脳波学的検証について報告する。 1)MSの行動的検証:覚醒状態に突如割り込んで「自動行動症候」を呈するとされるマイクロスリープの行動的表出について,覚醒維持の努力を負荷する交代式tap運動を適用し実験的に検討した。交代式tap運動は1秒(tap-tap間隔)を見積もりながら所定回数のスイッチ押し(tap)運動を左右の手を交代させて行う作業課題である。覚醒から睡眠段階1S(頭頂部鋭波を伴う段階1)に至る過程で左右の手に形成されたtap列(手続き通りであれば10個のtap連鎖)について運動パラメータの時間変動を分析した。その結果,運動の誤動作と修正を繰り返すtap列の経過が見出され,誤動作はtapの部分的欠損に始まり,荷重圧の減少,間隔の延長を経て手の切り替え時間延長と切り替え失敗に至った。この誤動作・修正のtap列は,運動制御機能の崩壊と運動停止に先行して生じることから,MSの行動的現れと考えられた。 2)MSの脳波学的検証:tap列の誤動作・修正期は脳波α活動が出現率50%前後で揺らぎ,覚醒水準の低下を示した。そこで,MSの行動的表出であるtap欠損や間隔の延長といった運動誤動作と密接に関係する脳波スペクトルの解明を目的として,1〜2秒の短い分析長でも高分解能のスペクトル推定を可能とする最大エントロピー法(MEM)を導入した。前頭部と後頭部の脳波スペクトルをtap-tap間隔毎にMEMで推定し,脳波スペクトルとtap運動の間に概ね次のような対応を認めた。(1)優勢周波数(極大値エネルギーの周波数)をAlpha帯域にもつ単峰性スペクトルの出現は高荷重圧tapがほぼ一定間隔で経過するtab列に顕著である。(2)優勢周波数を欠いた右下がりスペクトルは荷重圧の急減やtap間隔の延長と関係がある。(3)優勢周波数をAlpha帯域あるいはAlpha-Sigma帯域にもつスペクトルは高荷重圧tapの回復時に現れやすい。MEMによるスペクトル推定はMSに関わるtap運動の変化と脳波活動の力動的な対応を解明する糸口を提供した。また,MSの脳波学的アプローチにおいて後頭部脳波が重要な指標と考えられる。
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