本年度は、「視覚的対立現象の転換機構」を探るために、この年度の設備備品費で購入された『ディスプレイ』と『パーソナルコンピュータ』によって、明るさの"同化・対比"といった「視覚的対立現象を典型的に示す刺激パターン」を作成し、多様な被験者の見えが測定された。また、同様に設備備品費で購入された『カラーレーザープリンタ』によって、より鮮明な「刺激パターン」の大量印刷が可能となり、一般大学生や美術系大学生に対して、「ブックレット方式の刺激図形」を呈示して、より現実的な場面での多くの観察結果を収集することができた。これらの観察からは、「傾斜縞模様図形」における"同化から対比への変換"に、「"刺激図形と背景との明るさや色彩の変化"が効果を及ぼしていること」が認められ、「刺激パターンに対する"認知的図形把捉"が、図形の背景にも及んでいること」が確かめられた。これらの結果は、これまでの研究とも関連を持っており、「日本色彩学会第33・34回全国大会」において発表されている。 また、「幾何学的錯視」のうち、内外円の直径比の変化によって、内円が過大視(同化)から過小視(対比)に変化する「大きさの円同化対比錯視(同心円錯視)」に注目し、上記の実験と同様に、大量の観察結果を収集した。これらの観察からは、「内円の同化から対比への変換が、内外円の"奥行きの把捉や纏まりの把捉"と特異な関係を持っていること」が見出され、これまでの研究で提起されてきた「同化と対比への異なる処理過程の関与」が示唆された。これらの結果は、日本心理学会第67回大会において発表されることになっている。 さらに、以上の研究経過は、研究代表者が編集委員を務めた『色彩用語事典』(東京大学出版会)の編集業務と、視覚に関する諸項目への執筆において、有用に参照されることとなった。
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