本年度は、「視覚的対立現象の転換機構」についてさらに検討を進めるために、設備備品費で購入された『微小インクドット・カラープリンタ』によって、より鮮明な「視覚的対立現象を典型的に示す刺激パターン」の大量印刷が可能となり、一般大学生や美術系大学生に対して、色比較・検査用D_<65>蛍光ランプ(消耗品費で購入)のもとで、「ブックレット方式の刺激図形」を提示して、より現実的な場面で多くの観察結果を収集することができた。これらの観察からは、「傾斜縞模様図形」における"同化から対比への変換"に、「"刺激図形の背景"や"分割の配置"が効果を及ぼしていること」が認められ、「刺激パターンに対する"認知的図形把捉"が、図形の諸刺激条件に影響を受けていること」が確かめられた。これらの結果は、「日本色彩学会第34・35回全国大会」において発表されている。 また、「幾何学的錯視」のうち、内外に配置される円や方形における"大きさ比"の変化によって、内側の図形(検査図形;円・正方形)が、過大視(同化)から過小視(対比)に変化する「大きさの同化対比錯視」に注目し、上記の実験と同様な手続きによって、多くの観察結果を収集した。これらの観察からは、「検査図形の同化から対比への変換が、内外図形の"奥行きの把捉"や"纏まりの把捉"と特異な関係を持っていること」が認められ、これまでの一連の研究で見出されてきた「同化と対比への異なる処理過程の関与」が確認された。これらの結果は、日本心理学会第67・68回大会において発表されている さらに、以上の研究経過は、研究代表者が編著者を務める『錯視の科学』(東京大学出版会;本年12月刊行予定)において、「幾何学的錯視における同化と対比」に関する諸項目の執筆に、有効に参照されている。
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