本年度は、「視覚的対立現象の転換機構」についてさらに検討を進めるために、鮮明な印刷が可能となった「視覚的対立現象を典型的に示す刺激パターン」を用いて、一般大学生と美術系大学生に対して「ブックレット方式の刺激図形」を提示し、より多くの観察結果を得ることができた。両群の大学生による観察からは、「傾斜縞模様図形」における"同化から対比への転換"に対して、「"刺激図形の背景"や"分割の配置'が、異なる効果(前者が同化の促進、後者が対比の促進)を及ぼしていること」が認められ、「刺激パターンの"認知的図形把捉"(一体化:同化、差別化:対比)が、諸刺激条件に影響を受けていること」が確かめられた。これらの結果は、「日本色彩学会第35回全国大会」において報告された。 また、内外に配置される方形や線分における"大きさ比"の変化によって、内側の図形(検査図形)が過大視(同化)から過小視(対比)に変化する「大きさの同化対比錯視」(幾何学的錯視)に注目し、上記と同様な手続きによって観察結果を収集した。その結果、「検査図形の同化から対比への転換が、"一体化と差別化の拮抗状態"を反映しており、内外図形の"奥行きや纏まりの把捉"と"刺激条件"に影響を受けていること」が確認された。これらの結果は、日本心理学会第68回大会において発表された。 さらに、以上の研究経過は、研究代表者が共編著者を務めた『錯視の科学ハンドブック』(東京大学出版会;平成17年2月刊行)において、「幾何学的錯視における同化と対比」および「幾何学的錯視の心理的な成立要因の分析」に関する執筆に有効に参照された。
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