研究概要 |
本研究は、「視覚的対立現象(同化・対比など)における転換に及ぼす認知的効果」を実験的に検討し、幾何学的錯視を典型例とする「特徴的な形の知覚」の成立機構の解明を目的として進められた。そこでは、本研究費補助によって整えられた「ブックレット方式の刺激図形」を、図形への知識や構えが異なる一般大学生と美術系大学生に対して提示し、両群の大学生に共通する多くの観察結果を収集した。 まず、「傾斜縞模様図形」の"明るさの同化から対比への転換"において、「"刺激図形の背景"が同化の促進に、"分割"が対比の促進に、それぞれ関与していること」が認められ、「刺激パターンへの"認知的図形把捉(変換点の移動)"が、諸刺激条件に影響を受けていること」が確かめられた。これらの結果は、「日本色彩学会第33,34,35回全国大会」において報告された。 また、内外に配置される同心円、方形、それに線分における"大きさ比"の変化によって、内側の図形が過大視(同化)から過小視(対比)に変化する「大きさの同化対比錯視」に注目した。これらの錯視の観察からは、同化から対比への転換が、内外図形の"奥行きや纏まりの把捉"と対応していた。すなわち、「視覚的対立現象をもたらす"認知的把捉に基づく同化と対比の拮抗状態(転換の出現)"は、幾何学的錯視の成立に深く関与しており、さらに、"内外図形の大きさ比"といった刺激条件によっても影響を受けていること」が確認された。これらの結果は、日本心理学会第66,67,68回大会において発表された。 以上の研究成果は、『研究成果報告書』として纏められた。また、『色彩用語事典』(東大出版,2003)の項目執筆に参照され、『錯視の科学ハンドブック』(東大出版,2005)の編著において、「幾何学的錯視における同化と対比」および「幾何学的錯視の心理的な成立要因の分析」に関する執筆に取り入れられ、「刺激間の相互作用に基づく"同化と対比"が幾何学的錯視の主要な成立要因であること」が提起された。
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