平成15年度は、2名の心身とも健康な大学生をリクルートし、本実験の趣旨・目的・手順・危険性について、十分に説明し、文書で同意を得たうえで、本実験に参加してもらった。12時間の昼夜逆転のシフト実験をシフト前3日間、シフト後3日間で実施し、室内光(CL)条件ではシフト操作時は500ルクス以下の室内光で過ごし、高照度光(BL)条件では18時から22時の4時間高照度光を浴び、他の時間は室内光で過ごすことを条件として実施した。被験者は、実験中の全期間、Actigarapah(米国AMI社)をできる限り装着(入浴時は除く)し、睡眠日誌とともに睡眠覚醒リズムをモニターした。また、実験期間中の体温リズム測定のため、1日5回以上口腔体温を測定した。シフト前1晩(24時-8時)、シフト後2晩(10時-17時)に携帯型脳波計AP1000(TEAC社)にて睡眠ポリグラフ検査を実施した。シフト前、シフト後の昼間に多相性睡眠潜時測定検査(MSLT)を覚醒後2時間後より2時間おきに5回実施した。また2時間後のMSLT後に1分間の内田クレペリンテストによる計算作業能力、VAS(ヴィジュアルアナログスケール)、SSS(スタンフォード眠気尺度)、KSS(関西学院眠気尺度)による眠気や気分の自覚評価を実施した。平成14年度の3名とあわせて5名の被験者のデータを今年度までに集積できた。このうち脳波の睡眠経過、睡眠パラメータ、VAS(ヴィジュアルアナログスケール)、SSS(スタンフォード眠気尺度)、KSS(関西学院眠気尺度)の5名分のデータ解析を終了した。シフト前と比較しシフト後では、高照度光により、1)個人により差異はあるが、睡眠経過がより安定すること、2)特に覚醒段階や睡眠段階が少なくなり、より深い睡眠段階が多い傾向が見られた、3)睡眠段階のシフト回数は、やや少なくなる傾向があるなどの回復睡眠についての所見が見られた。自覚的な変化については、シフト前と比較しシフト後では、高照度光により、1)眠気の低下がやや見られたこと、2)気分については、疲労感や眠気の軽減、覚醒度の上昇が人によりみられたことなどが所見としてあげられる。ただし、個人差が大きく、人数が十分でないため統計解析は未実施であるため、次年度3例ほど追加して上記の結果を確認していきたい。口腔体温については、コサイナー法での分析プログラムが使用できないため、新たにソフトを依頼して解析予定である。AP1000による脳波の周波数分析、徐波成分のパワースペクトラム解析は、データの抽出や解析技術の習熟など現在実施しながら、次年度中に行う予定である。また、脳波や主観的な自覚評価との相関などについても解析方法を検討しながら、実施する予定である。これらの結果から、現在医療の臨床場面で一般化しつつある12時間シフトの問題点やその解消法としての高照度光の利用について提言する予定である。
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