本研究の目的は、人間の認知地図が、リンチが提唱する都市のイメージの構成要素に対応したものから成り立つという仮説にもとづき、認知地図における環境の表現様式を明らかにすることであり、本年度は、現実の都市環境をシミュレートした人工現実感映像を制作して、環境の探索によって形成される認知地図の構造を明らかにするための心理物理学的実験と脳磁図計測実験をおこなった。 1.平成14年度より開始した、人工現実感環境における経路検索の直前にあたえた音声によるパス・ノード情報の経路探索時間への影響、および人工現実感環境における経路検索の直前にあたえた地図によるパス・ランドマーク情報の経路探索時間への影響について、被験者を増やして心理物理学的実験と脳磁図計測実験をおこなった結果、環境が複雑な場合においては環境中心座標的なパス・ノード情報によって認知地図が形成される、また地図におけるランドマークと環境におけるランドマークの間の不一致が環境全体の認知地図の形成を妨げるという、平成14年度の主要な結果が再現された。 2.平成14年度においては、都市イメージの五つの構成要素の全てを含むように現実の都市環境をそのままシミュレートした映像を使用したが、平成15年度においては、ランドマーク情報とディストリクト情報のうちのいずれか、または両方が欠落した人工現実感映像を制作して、心理物理学実験と脳磁図計測実験をおこない、それぞれの情報に応じて、その欠落による認知地図の構造とその脳内部位への影響が異なるという傾向を見いだした。 3.これらの実験結果にもとづいて、認知地図形成に関わる神経ネットワークを解明し、都市環境や高度情報社会メディアにおける「迷子問題」を根本的に解決するための提案をすることを今後の課題としたい。
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