研究概要 |
本研究は、高齢者の語想起能力とその低下のメカニズムを検討することを目的とする。加齢に伴い人名などの固有名詞が想起しにくくなると言われているが、これまでの語想起研究では、人名・地名などを含む広範なカテゴリーについて高齢者の語想起能力を調べた研究はなかった。そこで,先に、健常高齢者と若年者を対象に、語頭音、生物、人工物、人名,地名、抽象語など12領域に渡る48カテゴリーの語想起実験を行い、延べ約36,000語の生成語の量的、質的分析を行った。その結果、高齢者は総じて若年者より語想起能力が低下し(若年群の約75%)、特に人名が困難になること(若年群の約54%)、一方、若年者も一般名詞に比べ人名想起が相対的に困難になることがわかった。 今年度は,人名の想起困難の普遍性を検討するため,先の実験から3年以上経過し再実験を行なった健常高齢者24名(70-85歳,平均77.4歳)のデータを分析し,生成語数と生成語の内容一致度を検討した。1回目に比べ,生成語数は5%増えたが,12領域の相対的難易度は変わらず,地名が最も容易で人名が最も難しかった。一方,若年群の生成語数に対する高齢者群の生成語数の比は上昇し(75%→79%),人名の想起困難は目立たなくなった(54%→73%)。1回目と2回目の生成語の内容一致度を調べたところ,個人内の一致度は平均36%であり,語頭音(20%),人名(20%),抽象語(12%)の一致度が低かった。高齢群全体の一致度は73%だったが,やはり語頭音(50%),人名(49%),抽象語(37%)の一致度は低かった。人名は,安定して生成される典型的項目が少ないと示唆される。 次に,人名の想起困難が,先の人名(「政治家、女優、歌手・タレント、作家・詩人」)以外にも広く認められるかどうかを検討するため,新たな人名カテゴリーを含む語想起実験を準備している。
|